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市川院長の『病気の話』Blog

話題の病気

第13話 胃癌の原因−ピロリ菌について

ピロリ菌とは

 ヘリコバクター・ピロリ菌(ピロリ菌)は1982年にオーストラリアの医学者らによって発見された胃の粘膜に住み着く特殊な細菌です。ピロリ菌はらせん状形態を呈し4~8本の鞭毛(しっぽのようなもの)を有し、これを回転させて胃粘液中を泳ぎまわり、胃粘膜細胞や細胞間隙に定着、生息しています。通常、胃粘膜は胃酸(塩酸)が分泌されており、経口的に入った多くの細菌などの病原体は殺菌されてしまい胃粘膜に住み着くことはできないと考えられていました。ところがピロリ菌は極めて強いウレアーゼ活性(尿素を炭酸ガスとアンモニアに加水分解する酵素活性)を有しアンモニアを産生し胃内の強い胃酸から身を守って胃粘膜内に住み着くことができると考えられています。
 ピロリ菌の感染率は発展途上国、低所得国ほど高いことが知られています。わが国では10歳代や20歳代では10から20%程度ですが、年齢が高くなるにつれて増加し60歳代以上では60~80%程度とされています。

ピロリ菌が引き起こす様々な病気

 ピロリ菌は最初、胃炎(写真1)や胃潰瘍・十二指腸潰瘍(写真2)を起こす菌として認識されましたが、研究が進むにつれ、胃MALTリンパ腫、胃過形成ポリープ、特発性血小板減少性紫斑病、胃がん(写真3、4)などとの関連が明らかとなってきました。とくに胃がんとの関連性は重要で、C型肝炎ウイルスなどと同様に、長期にわたる持続感染から悪性腫瘍を引き起こす病原体の一つと認識されるようになりました。現在、日本人の胃がんの原因の90%以上においてピロリ感染が原因と言われています。
 当初はピロリ菌感染症のうち胃潰瘍・十二指腸潰瘍のみがピロリ菌の除菌適応でしたが、2000年からMALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃がんの内視鏡的治療後などが除菌治療の保険適応となりました。近年、胃がんの発生母地としてのピロリ菌持続感染による萎縮性胃炎が注目され2013年からはピロリ感染胃炎も除菌治療が保険でできるようになりました。

写真1
ピロリ感染胃炎(胃粘膜が凹凸不整で萎縮している)
写真2
十二指腸潰瘍(十二指腸球部にできた深い出血性潰瘍→除菌治療により完治)
写真3
早期胃がん(ピロリ菌陽性で内視鏡下切除で治癒)
写真4
写真3と同じ例のNBI+拡大像
 

ピロリ菌の感染経路

 ピロリ菌は広く環境に生息する菌で、唾液、糞便、井戸水などの生活用水などから検出されることがあります。上下水道が完備した国や地域では生水を飲んで感染することはほとんどないと言われています。わが国では戦前から戦後しばらくの間までに生まれた人たちの感染率は欧米人と比べてかなり高かったのですが、上下水道が普及した現代では感染率は急速に低下し、現在の中高校生以下の感染率は3~5%程度と報告されています。
 ピロリ菌の感染経路ははっきりとは解明されていませんが、成人になってピロリ菌に汚染された水や食べ物から感染することは無く、感染に対する免疫防御機能が不完全な幼児期に感染すれば生涯にわたって感染は持続し、自然に排出されることはありません(持続感染)。したがって乳幼児の時期にピロリ菌に感染している大人から口うつしに食べさせたりピロリ菌に汚染された食べ物や飲料水を与えないように衛生環境に気を配ることは大切です。

長く続く胃の不調→それはピロリ菌感染かもしれません

 胃の調子が悪い(胃もたれ、吐き気、げっぷがよく出る、おなかが空くと痛む、食後におなかが痛む、食欲が無いなど)。この場合、胃炎、胃潰瘍・十二指腸潰瘍、胃がんなどピロリ菌が関与した胃の病気である可能性があります。放置せず、胃の検査やピロリ菌の検査を受けましょう。ピロリ菌の検査は胃粘膜の生検(病理組織検査)、胃粘膜の迅速ウレアーゼ試験、抗体診断(血清、尿)、便中抗原検出法、尿素呼気試験(UBT法)などですが、尿素呼気試験は簡単で特異性、鋭敏性ともに高い検査法です。保険診療でピロリ菌検査を受ける場合は胃カメラ検査を受けることが前提です。当院では原則としてPOConeという診断装置を用いて尿素呼気試験を行い、約20分程度で診断結果を出します。

ピロリ菌感染症の治療

 胃薬1種類、抗菌薬2種類を朝夕1週間飲むことでピロリ菌の除菌治療(一次除菌)を行います。1週間の薬を飲み終わって1か月以上経って尿素呼気試験で除菌できたかどうかの判定を行います。除菌できていれば、そこで治療は終了です。除菌できていない場合は抗菌剤の組み合わせを1種類変えて2次除菌治療を保険診療で行うことができます。最近の除菌治療では2次除菌まで合わせて90%以上の除菌効果が認められています。